なぜ今政府は農泊を推進するのか?

2月3日に農林水産省より農業体験をフィーチャーした民泊施設を推進していくという発表がありました。いわゆる農泊というものです。農泊とは、田舎で農業や漁業など一次産業を体験することができ、また古民家など日本古来の家屋に滞在することができる宿泊体験を指します。政府がこれらを推し進める背景としては、2020年までにインバウンド旅行者数を年間4000万人に増加する目標を掲げている観光戦略の一環であると同時に、地方の過疎化、空き家問題などを解決する地方活性化政策にもなり得るという一石二鳥的思惑があるのではないかと考えられます。

農泊は一般的な民泊よりもハードルが低い

昨今話題になっている民泊の一種でもあるわけですが、農泊は通常の民泊をおこなうよりもハードルが低く、始めやすさの点で優遇されています。
通常の民泊は現在「特区民泊」という国家戦略特区として条例を施行された地域でおこなえるものと、旅館業の中の簡易宿所の免許を取得しておこなうものの2種類あります。前者は特区で実施する場合、様々な面で規制の緩和がされているのですが実情はそれでもかなり制約があり、中でも最も厳しいのが「最低6泊から」という縛りです。なかなか一つの施設に6泊する旅行者はいないことから、東京都大田区で始まったこの特区は実際のところワークしているとは言えません。1泊からの滞在を可能にするのは後者の簡易宿所免許を取得することですが、こちらの場合建築基準法、消防法、など旅館業を取得するための設備投資費がかかり「民泊」という言葉のカジュアルなイメージとは程遠い準備が必要になります。
※大阪市は今年にはいって最低宿泊数を2泊に変更しました

以上が都会のマンションや戸建てで民泊をおこなう場合の現状の法規制ですが、これが農泊になるとかなり緩くなり、最低宿泊数も1泊から可能になっています。条件は農業、漁業体験を提供することです。

ということで、農泊は始めやすさと1泊から滞在可という気軽さを兼ね備えており、既存のホテル・旅館協会とも市場の住み分けが出来ていることから政府としても推進しやすい分野となっているわけです。

海外の農泊事情

ここで肝心なことですが、当のインバウンド旅行者は農泊したいのか?という疑問が出てきます。いくら提供しやすいといっても、ニーズが無ければ計画倒れです。農泊は海外ではアグリツーリズム(Agritourism)グリーンツーリズム(Greentourism)とも呼ばれ、日本よりも長い歴史があります。
ヨーロッパが発祥と言われ、フランスやドイツが本場とも。以下はいつの記事か不明確ですが、フランスではバカンス客の実に36%が旅行先に田舎を選び、それに伴ってアウトドア製品やキャンピングカー等の市場も拡大しているということです。

ヨーロッパのグリーンツーリズム(GT)専門家のインタビューによると、人々がGTに求めるのは大別して以下の4つだそうです。

  1. 自然に触れたい
    これらはエコツーリズムとも呼ばれます
  2. 広大なスペースを求めている
    乗馬やハイキングといったアウトドアアクティビティのために農村を訪れるタイプ
  3. 建築物に惹かれる
    古い街並み、農家建築などに興味惹かれるタイプ。日本ですと古民家などに滞在したいというニーズはこれに当たりますね
  4. 農村の生活ノウハウを求めている
    農家や職人の技術に興味があるタイプ

リピーターほど農泊に魅力を感じる

日本を訪れる旅行者がまず行く東京、大阪、京都といった定番観光地を総称してゴールデンルートと呼びますが、アジアの旅行者の中には複数回日本を訪れている方も少なくありません。アジアに限らず欧米の旅行者にも言えますが、ゴールデンルートに飽きたら次に訪れるのは地方やよりディープにその国を体験できる観光地で、多くの場合それが地元の生活に触れることができる田舎になるわけです。よって今後日本旅行のリピーターが増えるにつれて、グリーンツーリズムの市場が拡大していくのは確実と言えます。

私の地元鳥取も豊かな自然に恵まれていますので、この推進活動に絡んで田舎ならではの魅力ある観光コンテンツを生みだして欲しいと思います。いくつか事例も出てきているようです。

2017年2月のMediumより転載

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